ソフトバンク決算説明会の個人的振返り。ニケシュ・アローラ退任、投資会社としてのSoftBankとその投資先、SoftBank2.0と情報革命への原点回帰
ニケシュ・アローラが予想外の早い旅だち
www.sankei.com
ソフトバンクの孫正義社長の後継者として2014年からソフトバンクに参加してきたニケシュ・アローラが2016年3月期の株主総会を以って退任することになりました。
利益相反疑惑や役員としての資質が欠如しているなどの株主(と言われているグループ)からの批判があり、第三者の法律事務所を交えた内部調査を実施し"問題がない"と結論付け今週の月曜日に公表していました。
退任を発表したタイミングがその翌日であった事からメディアでは、内紛など様々な憶測がありましたが、株主総会でのニケシュ・アローラの挨拶や全体の雰囲気から、孫社長自らが述べている「もう少し社長としてソフトバンクを率いたい、気が変わったんだ」という理由が真実ではないかなというのが個人的な感想です。
ソフトバンクは株主総会をライブ中継し、録画放送もホームページ上で行っております。動画配信 | ニュース | 企業・IR | ソフトバンクグループ
今回の株主総会がいつもと様子が違ったのは、他の取締役が多くコメントしたことです。これは、これまでにはあまりなかったのではないでしょうか。取締役陣としては、ロナルド・フィッシャーやYahooの宮坂社長、ユニクロの柳井社長、日本電産の永守社長などがコメントをしました。孫社長が60歳での引退を覆した事や、老害になりたくない、などの老いに関するトピックが多かったですが、永守社長は先日の自社の株主総会で120歳まで現役を続けろと鼓舞された事を明かし笑いを誘っていました。全体として、ニケシュ・アローラの予想外の早期退任という不安を払拭する為にチームの一体性を見せているのではないか。そんな感じがしました。
また今回の総会では改めてソフトバンク2.0の戦略が説明され、特に"事業"(主に国内モバイル事業、スプリント、YahooJapan)と"投資"(アリババ含めたベンチャー投資)を軸に説明がされました。今回の説明ではこの投資部分の説明が強調されているような気がしました。ニケシュ・アローラ参画後の投資とエグジット実績を強調することによって、任命責任への批判回避や報酬の妥当性を担保し、今後のアドバイザーとしてのアローラ氏が力を発揮しやすいように配慮した感がありました。
この数ヶ月のソフトバンクはエグジットラッシュでした。アリババ、スーパーセルとガンホーのエンターテイメント銘柄への投資のエグジットです。アリババについては、孫社長個人的には売りたくない気持があったが、「会社としてはバランスが必要」とし現金化を決断、スーパーセル等は同じく現金化の需要とゲーム銘柄への継続投資はソフトバンクの戦略と合致しない事から意思決定が行われている旨のコメントがありました。ソフトバンクの投資IRR(内部収益率)は44%とファンドとしては非常識的な水準にあり、孫社長はこの点を強調し、今回のエグジットにより流入したキャッシュは配当ではなく追加の事業投資に回したいと株主に語りかけました。
投資会社としてのソフトバンク
ニケシュが加入する以前からアジアへの投資は積極的であったソフトバンク。ジャック・マー率いるアリババへの投資とその巨額のリターンは有名です。今回の株主総会では、主にアジアでの主な投資ポートフォリオの紹介と、新しい領域としてのフィンテック銘柄への投資が説明されました。
Eコマース銘柄では、アリババ(中国)に続いてスナップディール(インド)、Coupan(韓国)、tokopedia(インドネシア)と第二のアリババとも言うべき、同ビジネスモデルのアジアの成長企業に投資を行っています。
もう一つはライドシェア銘柄です。本総会の中で、Uberへの投資機会を逃したことを後悔している事を明かした孫社長ですが、アジアでは、OLA(インド)、グラブ(東南アジア)、滴滴(中国)でトッププレイヤーに投資をしています。滴滴はテンセントとアリババがそれぞれ対抗してた2社が合併してできています。最近アップルが1億ドルもの巨額投資をしたことで話題になりました。英語名ではディディ(didi)タクシーです。Apple invests $1 bln in Chinese ride-hailing service Didi Chuxing
そしてフィンテック銘柄のSoFiです。与信審査のIT化(機械学習とビッグデータを活用して)、奨学金のリファイナンスや蓄財サービスなどを提供しています。
本ブログではフィンテック関連の記事を多く書いてきました(記事の最後に関連記事のリンクを貼っておきます)。このSoFi結構サービスがユニークだったので、少しだけ紹介します。
主に4つのサービスを提供しています。アメリカでは学資ローンを利用して進学する人が多く、その金額は多額になり返済は長期間に及びます。当初に設定された利率がその後の本来の信用スコアとは異なるにも掛からずそのまま払い続けている人が多いそうです。SoFiはより安い利息でリファイナンスを行います。
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オンラインから簡単にアプライできるのは、他のレンディング系のサービスと共通しています。ここまでであれば、レンディング系のフィンテックとしてはユニークではないです。ユニークなのはリファイナンスなどの低金利のローンの提供だけでなく、「失業時の支払一時停止」、「再就職のサポート」、「継続的なキャリア・サポート」など単なる金融サービス意外のベネフィットを会員に提供します。
単にIT技術で審査コストを下げるだけでなく、返済が滞るリスクを最も高めるイベントである失業というリスクへの手当や普段からのキャリアサポートなど努力でリスクを下げ、低金利を含めたサービスの向上を実現していくというのは、正攻法に思えるのですが、これまでの金融事業者がやってこなかったので意外性を感じます。
ソフトバンク・キャピタルとその投資先など
ソフトバンクは、ソフトバンク・キャピタルという会社が主に投資活動を行っています。10名程度の投資の専門家により構成されているそうです。今回の総会で紹介されたロン・フィッシャーがパートナーを務めています。
https://www.crunchbase.com/person/ronald-fisher#/entity
米国に拠点を置くソフトバンクのベンチャーキャピタルについては少ないながらも、いくつか日本語の記事を見つけました。一つ紹介します。
現在のソフトバンク・キャピタルは、米国でニューヨーク、ボストン、シリコンバレーにオフィスを構えており、IT産業の3大拠点をカバーしています。合計10人でほどからなる投資の専門家でチームを組んでおり、主にアーリーステージ(早期段階)のベンチャー企業に投資をするベンチャーキャピタルです。
運用資金の規模は500億円以上になります。さまざまな種類のフォンドを通じて投資を分散させています。1社につき1~2億円から最大25億円を投じており、現在も継続している投資ポートフォリオは約60社の企業で構成されています。テクノロジーで時代を変えるようなベンチャー企業を、常に情熱を持って探しています。
このソフトバンク・キャピタルの投資先はお馴染みのクランチベースにも掲載されています。ソフトバンク・キャピタルとして過去に159社、234の投資を行っています。ニケシュ・アローラが就任した2014年7月から現在までの2年間の投資総額は36件で約12億ドル($1,267M)です。その前の2年間の2012年7月から2014年6月までの2年間では45件約6億ドル($637M)なので、期間比較で総額が倍増しています。
ニケシュがジョインする前年は、スプリント買収(2013年7月)の時期なので単純に比較できませんが、ニケシュのジョイン後には$200Mを超える大きな投資が増えています。
また、上の2015年1月の記事で投資金額は最大25億円と発言されていますが、ニケシュは別部隊なので、少し条件が異なるのかもしれません。
また我々は通常、3年から8年ほどの期間で投資回収をするのが基本戦略になります。一方でニケシュさんのチームはより中長期的な戦略に沿って、孫さんとソフトバンクグループの次の10年、20年をさらに飛躍させる役割を担っています。極めて重要な仕事で、大きな権限を持っていると思っていいですよ。
<ニケシュのジョイン後の投資金額TOP5>※時期順
May, 2015 | NatureBox | $30M / Series C |
Dec, 2014 | Grab (formerly GrabTaxi) | $250M / Series D (Lead) |
Nov, 2014 | Housing.com | $100M / Venture (Lead) |
Oct, 2014 | Ola | $210M / Series D (Lead) |
Oct, 2014 | Legendary Entertainment | $250M / Private Equity(Lead) |
<ニケシュのジョイン前の投資金額TOP5>※時期順
Jun, 2014 | Kony | $50M / Series E (Lead) |
May, 2014 | Kabbage | $50M / Series D (Lead) |
Jan, 2014 | Wandoujia | $120M / Series B (Lead) |
Aug, 2013 | Snapdeal | $75M / Venture (Lead) |
Aug, 2013 | Fitbit | $43M / Series D |
※数字はCrunchBase上で公開されている全投資実績データから計算しています。投資金額が非公開の案件は金額に含めていません。
ニケシュ・アローラはインド出身で孫社長がインド向け投資を増やしたいタイミングで招聘され、対インド投資を増やしてきました。OLAはまさしくニケシュ後のインド投資ですね。その為、今回のニケシュの退任でインドのスタートアップのエコシステムには大きな影響が出ると言われています。記事の中では主にソフトバンクのインドでの投資を振り返っています。
シンギュラリティの時代、情報革命で人々を幸せに
孫社長はプレゼンテーションの中で今後起こるパラダイムシフトとしてシンギュラリティを挙げました。特異点の事で、IT業界ではコンピューターが人間を超える日のことをいいます。孫社長は2018年に物理的にトランジスタが人間の脳を超えると20年前に予測し、その時が近づいていること、また自らが近年行った再計算によっても、その予測は大きく変わっていない事を、過去5年以上変わらずに言い続けています。
シンギュラリティが起こる時代では人間より賢いロボットと共存する未来になります。ソフトバンクはスマートロボットと呼んでいます。IBMのワトソンを積んだペッパー君がそうですね。孫社長はソフトバンクの"情報革命で人々を幸せに"という自社のビジョンに再度触れ、テクノロジーの進化が、人々の幸せに繋がるよう、これからも努力していくと意気込みプレゼンテーションを終えました。2011年に作成した動画を2度もプレゼンテーションの最中と最後に流し強調しています。
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