【Brexit】Brexitの衝撃。EU離脱がロンドンのフィンテックスタートアップに及ぼす影響。国際金融都市から投資と人材が消える。
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このブログでは何度もFintechスタートアップについて取り上げてきました。
画像:World Ecconomic Forum.org
今回のイギリスのEU離脱を決めた国民投票が、ロンドンのフィンテック企業に大きな影響を与えています。ロンドン最大のFintechスタートアップで、ユニコーン企業のTransferWiseのCEOであるTaavet HinrikusはWorld Ecconomic Forumで以下のように語りました。
「Brexitは長期的にヨーロッパ全体を起業家(アントレプレナー)にとっての魅力を下げる」
また彼はWall Street Journalの取材に対して以下のように回答しています。
「まだ何も変わっていないが、全てが変わった」
「Brexitは、ビジネスにとって規制と人材(タレント)に大きな影響を及ぼす」
TransferWiseと言えば先日発表されたMITの世界の最も優れた50社に名前を連ねています。国際送金に取り組むフィンテックスタートアップです。
彼が言う規制と人材については既に報道されている通り、"EUパスポート"が大きく影響しています。この視点からイギリスがEUを離脱することにより、ロンドンのフィンテックスタートアップに及ぼす影響を考えていきます。
規制産業である金融業界 Fintech関連銘柄への影響は絶大
彼らのビジネスは金融という規制への適用が求められるビジネスです。多くのFintechスタートアップがロンドンにその拠点を置く理由は、"EUの域内であればEUのパスポートによりほぼワンルールでオペレーションが設計できること"が一つと、"ロンドンはニューヨーク、上海、香港などと並び金融セクターの中心であること"です。
多くのレガシーな国際的な金融機関はヨーロッパの拠点をロンドンに置いています。イギリスがEUを離れ、この"EUパスポートの恩恵"を享受できなくなった場合、フィンテック企業のオペレーションに大きな影響を及ぼします。これは言わずもがなコスト増に繋がるだけでなく、サービスを利用するユーザーの利便性低下にも繋がります。ユーザー視点で見ると、特に決済、送金系のビジネスが影響を受けやすいと考えています。ロンドンを経由することにより、手間やコストなどが増える可能性がある。
そして、これはFintechに限った話ではないです。彼らに出資をしている、もしくは彼らと協働している大手の金融機関の拠点がロンドンから撤退する可能性があります。支店が残らない可能性は限りなく低いですが、意思決定者などの大きな影響力を持った国際金融機関のリーダー達がドイツなどに向かうことで、彼らとの物理的距離が遠くなることは大きなマイナス要因です。
特に現状でフィンテックのスタートアップはレガシーな金融機関のシステム(オンラインバンクや決済システムなど)をリプレースするディスラプィブ(破壊)には至っておらず、ビジネス上彼らと寄り添い共存する必要があります。
ロンドンへのFintech投資は敬遠され 人材確保が困難に 更なる投資減の負の連鎖
近年のフィンテック市場への投資の増加、特にロンドンでの盛り上がりは多くの人が知る所でした。2015年のUKでのベンチャー投資は36億ドルで約65%がロンドンの企業に向けたものでした。そして、その半分がフィンテック系スタートアップでした。
上述の理由により、明るいと思われていたロンドンのフィンテックスタートアップの未来は一気に不透明になりました。ほぼ間違いなく暗い未来でしょう。現状では不確実な状態ですが、これが最も投資家に嫌われます。そして、その事を知っているフィンテック企業の上層部は今後の追加投資の確実性を上げる為に、ロンドンから脱出していくことが予想されます。
フィンテック企業で必要とされる、"金融"、"テクノロジー"に長けた人材はどちらも、Skilled WorkerなのでEU域外になってもロンドンで雇用される道は残りますが、ロンドンに残る限るは、フィンテック企業への投資減の影響を受け、これらの優れた人材確保に使えるマネーが減り競争力を失います。
また、スケールするというスタートアップの使命上、投資が受けられないことは致命的です。特に現時点で自らのビジネスからは潤沢なキャッシュインフローを得られていないフィンテックは特に投資が受けられない事は致命的です。
また、才能あふれる人材の確保ができないスタートアップには投資が集まらないので、典型的なバッドループに入ります。このリスクを避けない起業家はいないでしょう。人材側にとっても、EU内で働ける事によるベネフィットがなくなる事はロンドンを選ばない理由になります。
ロンドンからの移転先候補は虎視眈々とその座を狙う ドイツが最有力か
最有力の移転先と考えられるのはやはりドイツです。フランクフルトをフィンテックのメッカにしようという動きはありますし、ベルリンにもNumber26などのようなフィンテックスタートアップもありますし大手サービスのクローンを数多く生み出して成長したロケット・インターネットなどのテクノロジー企業が存在します。ドイツが政治的にも経済液にもEUのリーダーであること、大手金融機関のドイツ銀行の存在などが挙げられます。
その他にはSpotifyを生み出したストックホルム、北欧は元々テクノロジー先進国で、フィンテック投資も盛ん(米国、UKに続いて3位)ですし、アムステルダムにAdyen(同じく国際決済)などのフィンテック企業がいます。また同じ英語圏のアイルランドのダブリンもその座を虎視眈々と狙っているという報道がありました。
既に本店移転を計画 最大手のTransferWiseの動向は注目
ロイターの報道によると既にいくつかのFintechスタートアップはロンドンからの脱出プランを計画中だそうです。国民投票前に10社に質問し、EU離脱が決まった場合は、7社は既に移転するとの回答を得たとの報道もありました。特に、TransferWiseなど大手の流出が一気に引き金となる模様です。
一部では、これらのフィンテック企業がこれまでのEUのルールを適用しなくて良いことで、EU外に向けてよりディスラプティブなサービスを設計できるとの意見もありますが現在のCEO達の発言を見ていると、そうは考えていないようです。
ロンドンがUKから独立して、EUに残るという動きもあるそうですが、少なくともその実現の頃にはロンドンはフィンテックの中心ではなくなる模様です。
参考記事:
London’s booming fintech market under threat from Brexit vote - FT.com
After Brexit, the race is on to replace London as Europe’s startup capital — Quartz
Brexit Leaves Europe’s Fintech Firms in the Lurch - WSJ
50 Smartest Companies 2016 - Linkis.com
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